はじめに
今回は、美術や図工を授業で教えている方の参考になるよう、いつもより専門的な用語も交えながら書きました。想像画の描き方やストーンアートに興味をお持ちの方もぜひ見てくださいね。
想像画とは?
美術の授業には、「想像画」や「想像の生物デザイン」などの単元がある。作品例として用いられているのは、超現実主義(シュルレアリスム)のダリやマグリットの絵画だ。
想像画や想像の生物は、実際には存在しない。つまり、モデルとしての直接の資料がない。
大抵は、存在する生物を組み合わせたり、目や鼻などの顔の部分、耳や角、尾など特徴のあるところの部分を資料にして描く。
想像の生物をリアルに描くには、資料を参考にするとともに、立体を表すための光と影を描くことが欠かせない。光と影のつけ方の基本を知っておくことがリアルな作品づくりにつながる。
今回の作品例は、石のくぼみから発想した想像の魚(下の写真)。
ストーンアート第15回。
想像の生き物を描く手順と、リアルに描くための光と影のつけ方を、平面・曲面の違いにふれながら説明する。
想像の魚 制作手順
想像の魚を石に描く。制作手順を紹介。
1.石を洗う
細かい砂などの汚れがついているので洗おう。また、石に穴が開いているので、特にていねいにたわしで洗い、乾かす。
2.モチーフ(素材)を考える
石に小さな穴がいくつか開いていた。欠けたのだろうか。長い年月でなめらかな穴になっている。
上の写真を見ていただきたい。まるで、石の表面に口が開いているようではないか。
すぐに人間の顔を思い浮かべたが、いくつもの顔が石に浮かべば、ホラーな雰囲気になりそうだ。それも面白い作品になるかもしれないが・・・迷う。
魚、たとえば鯉が口を開けているのはどうだろう。
3.鯉を正面から見た写真の資料を探す
写実的な表現をするには、本物の生物の資料があると参考になる。色々な方向から見られるように本物を用意したいところだが、難しいのでネットなどの写真が便利。
鯉の写真資料をいくつか集めて観察した。石の穴は、思ったような形とは違うことに気がついた。
鯉がえさを求めて口を開いている様子を撮影した写真はどれも丸い。これ以上ないほどに開いて、突き出ている。この石は半開きの形に見えるが、同じ感じの写真が見つけられなかった。
しかし、写真を見ていると鯉の口の形の面白さに惹かれる。想像の魚の口としてのモデルにすることに。
そして、形の違う点を活かして、それに合うような生物を描こうと決めた。口を中心に、本体を想像しながら描く。
4.下絵
鯉の口をベースに、魚の形を考える。
鯉が正面を向いていることにして、側面が少し見えるようにデザインした。
下絵を絵の具で描く。
5.着色
今回は口が主役。唇から塗っていく。そして、鯉を正面から見た写真を参考に形をとり、体の色を塗る。
6.影入れ
影を塗って立体感を出す。
しかし、形は想像したものなので、本物の立体感を確認することができない。
実際にいない生物を表現するために、立体感は光と影の理論でつける。
立体感を描くために意識すべきこと
立体感を出すためには、次のAとB、2種類の影を意識してみよう。
- A…光が当たった時、本体に明るいところと暗いところができる影
- B…物によって光が遮られてできた影(いわゆる影法師)
光の方向(光源)をひとつに決めて、明暗の変化や影の出来る場所を考えながら、理論で描く。
立体感を理論で描く方法とは?
Aの場合
形によって変わる明暗の違いを塗り分ける。今回の魚の作品では、唇や胴体の形に明暗を加えた。
明るいところと暗いところは、その面がどんな形状なのかによって色が違う。
平面と曲面では、次のような違いがある。
・平面は、光源に対して垂直なほど明るい。角度が変わると明るさが変化する。
・曲面は、面の向きが徐々に変化しているので、段々色を変化させることで表現する。
(具体的には下記のまとめで、立方体の鉛筆デッサンの写真を使って説明する。)
また、今回の魚の胴体は円錐形の曲面なので、徐々に暗くするグラデーションで表現した。
*グラデーションの説明はこちら。
kanoi-art.com
Bの場合
物によって光が遮られてできた影を描いていく。
えらやヒレによって出来る影を本体に暗い色で塗る。
石にあるもうひとつのくぼみにも、魚の口と体をデザインして同様に描いた。
唇と、その周りの下地塗りがこちら。
影を加えて仕上げる。
7.ニス塗り
ニスを塗って、保存性を高める。ニスはつやをだす効果もある。
まとめ
想像の世界は理論で描く
想像の生物を描くときは実物がないので、光と影をどう表せばいいかを考えて立体感をつける。
そのために、形によって影がどのように見えるのか知っておくと表現しやすい。できればデッサン等で練習しておきたいところだ。
立方体の鉛筆デッサンについて解説
絵を学ぶ人は最初に、よく基本形を練習する。
まずは、直方体・円柱・球の三種だ。
それを使って説明する。(デッサンは前に描いた古い物。色々使ったので、風化していて申し訳ない。)
直方体
直方体の平面が三面が見えている場合、平面の中では色の変化は大きくない。
また、光に対して垂直に近い面ほど明るい。
円柱
円柱には、曲面と平面がある。
曲面は色々な自然物の形の中に見られる。
光が垂直に当たらない方へ向けて段々暗くなっていく。
影の暗さを少しずつ変化させて描くのがポイントだ。
球
球の光も少しずつ変化する。
円柱と違うのは、最も明るい一点から遠心上に暗さが広がっていくこと。
自然物の形は複雑だが、基本は上で紹介した平面・曲面の細かな組み合わせ。
実際にいない生物を写実的に表現するために、光と影を理解しておきたい。
また、鉛筆の線の方向や筆のタッチは、その形のアウトラインに沿うことも上手に描くコツだ。
感想
今回の作品は、2匹の想像の魚を描いた。
気味が悪いような、ユーモラスなような可愛さがある。ピンクと黄色の唇が、気に入っている。光を当てて艶やかに表現してみた。
当初は鯉を描くつもりだったが、石の穴の形から空想の生物に移行した。
この事で写実の技法を使い、色々なデザインに表現してみたくなった。
例えば昔の映画「エイリアン」に出てきた地球外生命体。リアルで気持ちが悪かったが、美しかった。エイリアンをデザインしたギーガーという人物は、私の好きなサルバドール・ダリに影響を受けているのだという。とても憧れる。
石の中に想像の世界を表現すると、立体のキャンバスなので面白いかもしれないと思った。もっと腕前を上げて時間をかけて丁寧に描いたら、思い通りのものが出来るだろう。見た人が驚いてくれるのは、嬉しいことである。
家族がそれぞれ皆、「うわっ!」って反応した。
ふふふっ。
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